2015年9月30日水曜日

本を求めて旅日記<九州編> 2日目 鹿児島②

おはようございます!くじらブックスです。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。
旅先でも与那国の台風被害について、頻繁に目にします。
その先、台湾やアジア圏も影響を受けていることと思います。
皆さまのご無事と、いち早い復旧を願っております。

旅先では定期更新もままならず遅くなってしまってますが、昨日の日記をお届けします。
よろしければご覧ください!

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9月29日(火)
朝から滝のような雨が降る鹿児島市内。
街のあちこちに建つ薩摩志士たちの像もびしょぬれです。


そんな中、地図を頼りにいくつか古書店を巡ってきました。
まずは、ネット検索ですぐにヒットした「つばめ文庫」さん。
住宅街の中にあるお店でしたが、幅広いジャンルで揃えているいわゆる<古書店>らしい雰囲気。レジ横の鹿児島関係が印象的です。沖縄や奄美関連もありました(写真撮り忘れ)。
ご挨拶してみると、開店前に沖縄の「とくふく堂」(現在「市場の古本屋ウララ」になった場所で営業していた古書店)を訪れたことがあるそうで、いろいろお話してくださいました。
週末に古書店合同で行うイベントについて、他の古書店について、帰りのバス停まで(!)丁寧に教えてくださる、やさしい店主・小村さんありがとうございました!

古書目利き市@ D&D (マルヤガーデンズ4F)
10月2~4日開催とのこと、行けたらよかったのに残念です。

つばめ文庫からの帰り道、沖縄・奄美・鹿児島ことを話しながら、各々の関係性を深く考えずにいたなあと、ふと反省。
あまりに無知なのもいけないな、ということで、次に向かったのが「鹿児島県歴史資料センター黎明館」。数多くの歴史資料が展示されています。
全体を見て、改めて、ここは大きい国だったんだなあという感嘆と、歴史に記録されない一農民・市民(離島の人々も含めて)の人生はどうだったのだろうと想像しました。
そして、近現代(第二次世界大戦)に対するスタンスの違いも感じられ、いろいろ考えるキッカケになりました。


遠目から見る西郷さん像。

さて、その後。
ご紹介いただいた古書店を2店巡りました。

古書リゼット」さんは市役所近くの<レトロフト>というビルの中で営業中。
カフェや飲食店、イベントスペースと繋がっている面白い形態のビルです。


広い店内の入り口近くに親しみやすい児童書・絵本・鹿児島関係、奥には芸術・思想・文芸、雑貨や洋書など幅広いラインナップ。いろんな読者層・年齢層が楽しめそうな店づくり。
店主の安井さん、沖縄の古書店主ともお知り合いだそうで、やっぱり丁寧に優しくお話してくださいました。(鹿児島の皆さんやさしい…)
鹿児島ではイベントに出店する機会が多い、買い取りの工夫など、古本ならではのことも伺えて、本当に古本屋がお好きなんだなあと、とても親しみが感じられました。ありがとうございました!

次に向かったのが「古本喫茶 泡沫」さん。


こちらは繁華街の中にあるお店。もともとカフェ&バーだったそうで、オシャレで落ち着く空間。ゆったり過ごされている若い女性のお客様も。
本は文芸書から民俗学、美術書、コミックなどさまざま。いずれも選ばれた本だというのが伝わってくる並びで面白い。


そして注文したエスプレッソケーキとブレンドコーヒーが、とっても!美味しい…。幸せな気持ちになりました。
電車の時間がありお声かけできなかったのですが、素敵な女性店主さんがいらっしゃいました。いつかまた訪れたら、お話してみたいです。

鹿児島を訪れて、土地の持つ潜在的な力(資源)と、出会った人たちのあたたかさを感じました。(鹿児島のお店はどこも印象のいい接客ばかりだったし)
そしてここでも本に携わって頑張っている方々がいるのだと、勇気づけられます。
頭で知っていることも、行って実感してみる。遠回りなようですが、自分にとっては貴重で大切な体験ですね。
歴史や過去(沖縄や奄美との関係)も含め、もっと知りたいと思えた2日間でした。今度は大隅地方にも行ってみたいなあ。

そんなこんなで雨の鹿児島を歩きまわり、落ち着く間もなく夜の便で熊本へ到着。
今日はどんな本・本屋に出会えるでしょうか。
また次の更新で。

2015年9月29日火曜日

本を求めて旅日記<九州編> 1日目 鹿児島

おはようございます!くじらブックスです。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。
九州旅行1日目、歩きに歩いて夕食に焼酎を飲んだら、ぐっすり寝ていました…。
ので、一日遅れになりますがまず昨日の話から書いていきたいと思います。
本の旅、よろしければご覧ください。

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9月28日(月)
午前中の便で沖縄→鹿児島へ到着。
バスで高速に出ると、周囲はさっそく山・山・山…斜面にいろんな種類の緑がもこもこと生えている。圧倒的な自然に見惚れる。
あても計画もなく来たので、とりあえず南下。
バスで指宿→<日本最南端の駅>西大山へ。
同じような観光客(外国人の人もいる)が写真を撮っている。しかし他にすることもない無人駅。どうしよう。
駅周辺唯一の売店をなんとなく眺めていると、無料の<九州お散歩マップ>のようなものを発見。
西大山~開聞駅まで10kmほど歩けるコースが掲載されている。
じゃあ歩いてみよう、ということで、開聞岳という山を目の前に、畑の道をひたすらに歩き続ける。


今日は曇りで、暑すぎずちょうどいい気候。ドーンとそびえる山の麓をぼんやり一人歩くのは、最高に気持ちいい。
遠く畑で働く人の姿や車で通りすぎる人はいるけれど、ほとんど人とすれ違うこともない。
集落の日常に自分だけが迷い込んだような異物感・よそ者感も、面白い。
途中、川尻海岸を経由。山と海の取り合わせは最高に気持ちいい。
ただ、思った以上に長い道のり。
疲れた…と、開聞駅で座っていると、70代くらいのおじいさんがやってきて世間話。
(今思えば、誰もいないところに一人でいるやつを心配してくれていた気がする)
おじいさんがふと、「沖縄の埋め立てどうなるんだろうねえ。他に移せばいいのにね」と言ってくれた。
こんなに遠くの人も、沖縄のことを少しでも考えてくれるのだという事実に、素直に感動する。
やっと来た電車(1時間~2時間に一本しかない)に揺られ、そのまま鹿児島市へ戻る。
乗り合わせる高校生やたくさんの人を見て、また日常に紛れ込んだ気持ちになる。
本屋巡りは明日にしようと思いつつ、とりあえずホテルに近いJ書店鹿児島店へ行き、鹿児島本をチェック。


『ライフ・トーク ―学生たちと歩いて聞いた坂之上の35名―』 著:ジェフリー・S・アイリッシュ、橋口博幸 出版社:南方新社
『七窪水源地爆撃記録』 著:岡村寛次 出版社:南方新社
『桜島!まるごと絵本〜知りたい!桜島・錦江湾ジオパーク〜』 著:NPO法人桜島ミュージアム、さめしまことえ 出版社:燦燦舎

上記3冊を購入。いずれも地元出版社のもので、初めて見る。どれも面白そう。
これからの荷物がすでに心配。
ホテルにチェックインし、近場の居酒屋で美味しい鳥と焼酎をいただいて、ほっと一息。
歩き疲れたけれど、まだまだ元気。
明日は鹿児島市内の書店をいろいろ巡れたらいいけれど、どうなることでしょう。
行き当たりばったりの旅は始まったばかり。

※いずれ追記・修正するかもしれません。

2015年9月28日月曜日

旅立ちます&本紹介(日:勝手に選書!)「秋・悩める中高生に薦める3冊」

こんばんは!くじらブックスです。
沖縄本島では、台風の影響はほとんど感じられない一日でした。
八重山地方はこれから大分影響がでるようです。
該当地域の皆さま、どうぞお大事にお過ごしください。

個人的にはWEBストアの開設(随時更新!)、九州旅行の準備でパタパタしていました。
そう、明日9月28日から10月6日まで、旅に出るのです。
最終目的地は10月4日の『一箱古本市in BOOK マルシェ佐賀』。その前に九州各地を放浪してきます。
旅先から更新のため、ブログも現地で見た風景・出会った本について、書いていこうと思います。毎日更新は続けますので、どうぞよろしくお願いします。
さて、どんな旅になるでしょう。全くノープランなので、楽しみです。気ままに行ってみます。
オススメなどありましたら、どうぞ教えてください。

ブログでは毎日、曜日ごとにテーマを決め本をご紹介しています。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

日曜日は<勝手に選書!>
今日は「秋・悩める中高生に薦める3冊」
2学期が始まり、約1か月経った日曜の夜。
読むと気分が楽になりそうな本(当社比)を選んでみました。


『僕の高校中退マニュアル』 著:稲泉連
出版社: 文藝春秋 価格(本体):※出版社品切※

高校一年生の2学期、著者は中退を決めた。
上辺でしか付き合えない周囲と自分の関係、中学~高校入学後も変わらなかった学校生活への<違和感>。嘘をつかず向き合った結果、彼は常識と呼ばれる道を降りる。そして、大検(現在は高認)・大学受験を決意する。
冷静に分析しつつ自身で考え決める著者は、とても10代(執筆時)とは思えない。一方で、くよくよしたり怠けたり、高校生らしい幼さも見える。一歩一歩踏みしめながら進んでいる姿が文章の奥から浮かぶ。そして家族や塾の先生・仲間たちと、強制されない心の付き合いで支えられていく。
彼は、訳も分からず流されたくないと言う。それは本来誰もが感じるているはずの感情ではないか。だからこそ、読者は彼を憎めず、応援したくなるのだ。
結論から言えば、大検合格・早稲田二文合格で、新しいスタートに立ち本書は終わる。あくまでプロローグだから、ドラマチックでもない、成功マニュアルでもない。
学校生活は長い人生の1ページ、それぞれの進み方がある。正解などないのだ。どんな道も後悔しないよう、自分で決めて生きようよ。そう語りかけられている気分になる1冊。
(著者・稲泉連氏は、後年最年少で大宅壮一賞を受賞したノンフィクション作家。いずれの作品も興味深くオススメです)


②『まちがったっていいじゃないか』 著:森毅
出版社: ちくま文庫 価格(本体):660円

数学研究者・京都大学教授でありながら、独自のエッセイ・教育論も発表し続けた森毅氏。
この本は、子供時代からの思い出、戦争体験、勉強してきたこと等を、青少年向けに分かりやすく書いている。
周囲の価値観に合わせない、各々が自分なりのやり方で生きていけばいい、という誰もが心底願いながら言葉にできない思いを、のんびりでもはっきり、伝えようとしてくれる。
読めば「なんとかなるかも」と肩の力が抜け、勇気づけられるだろう1冊。


③『さびしさの授業』 著:伏見憲明 
出版社: イースト・プレス 価格(本体):1000円

誰にも理解されない、という孤独感。傷つけられ、二度と立ち上がれないと思うほどの悲しみ。
簡単には癒えないだろう、共有もできないかもしれない。
それでも、抱えて生きていくことがとても大切なことなのだ。
自身も苦しい10代を過ごした著者は、映画や創作物の例えも交えつつ、同様に苦しむ「君」たちに言葉を尽くして語りかける。上からではなく、そばで寄り添うように佇んでいる姿が浮かんでくる。
さびしさを知り、抱えて生きることは、無駄ではない。そう思えれば、今を乗り越えていける。
苦しい夜、光を放つ灯台のような1冊になるだろう。

2015年9月27日日曜日

<WEBストア>オープンしました

くじらブックス<WEBストア>
オープンしました。
https://kujirabooks.stores.jp/
入荷タイトルをご紹介・通販申し込みいただけます。
(支払方法:クレジット決済のみ)
実店舗の前に、こちらでイメージしていただけるよう工夫してまいります。
どうぞよろしくお願いします!

台風の行方&本紹介(土:ノージャンル)夏目漱石『彼岸過迄』

こんばんは!くじらブックスです。
台風21号が、明日には沖縄本島に近づくそうです。その後八重山地方にも迫る予測が。
前回の台風整備も未だ終わっていない様子。とても心配です。
皆さまどうぞ気を付けてお過ごしください。

ブログでは毎日、曜日ごとにテーマを決め本をご紹介しています。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

土曜日は<ノージャンル>
ご紹介する本はこちらです。




本日参加した読書会(OMAR BOOKS開催)の課題図書で、初読み。
漱石を読むこと自体、学生以来約10年ぶりかと。
想像した以上に登場人物が多く、物語が<入れ子>構造になっている。
敬太郎という一青年が職を探す場面から始まり、敬太郎の友人・須永、須永の叔父・田川、田川の娘・千代子、さらに別の叔父・松本…など、人物たちがどんどんつながってゆく。
そして語り手が須永へ代わると、話の中心も須永の家族・親類(特に千代子)との複雑な関係に移ってゆく。
終盤は松本視点から須永が描かれ、最後の最後<傍観者>である敬太郎に戻る。語り手・視点が何度も変化する構成だ。新聞連載のため、偶然その流れになった可能性が高いらしい。
しかし個人的に、人物を客観的・冷静に描く文体がより印象に残り、いかにも漱石らしい。
同じく、己の自意識と千代子に対する態度の狭間で苦悩する須永、というのも、漱石作品によくいる人物に思える。
この作品が漱石中期・転換期に書かれたものであり<自意識>描写は後年の作品群に通じるという。なるほど。
<自意識>は現代の若者(特に男性)も同様であり、きっと共感できると思う。
登場人物のそこそこの裕福さ、それによって生じる微妙な<自分探し>も、現代のそれと変わらない。
男と女、世間と自分の相容れなさも、同じだ。
そんな共感が、読み手をどんどん作品へと没入させていく。

今読んでも全く遜色ない、むしろ100年前が身近に感じられる、面白い小説。
漱石が初めての方、初期の漱石しか読んでいない方にも、オススメできる1冊。

※OMAR BOOKSさんでは10月「漱石とわたし」と題して、公開読書会を開催されます。
※詳細はOMAR BOOKSブログをご参照ください。
※個人的にも、しばらく漱石読みは続きそうです。


2015年9月26日土曜日

本の向こう側&本紹介(金:沖縄本)与那原恵『わたぶんぶん わたしの「料理沖縄物語」』

こんばんは!くじらブックスです。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今日は一日、10月4日開催『一箱古本市in BOOK マルシェ佐賀』用に選書していました。
どんな方がイベントに来るのか、どんな本を読むのか、せっかく沖縄から参加するならたくさん買ってもらいたい…と、試行錯誤。
想像しながらの選書は、難しくも楽しい作業です。
そして28日出発する予定ですが、台風到来でどうなることやら。
想像はまだまだ続きそうです。

ブログでは毎日、曜日ごとにテーマを決め本をご紹介しています。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
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金曜日は<沖縄本>
ご紹介する本はこちらです。




先週金曜日にご紹介した、戦前沖縄と琉球料理を巡る名エッセイ・古波蔵保好『料理沖縄物語』。
そのオマージュともいえる作品が本書だ。
著者・与那原氏は、沖縄出身の両親を持ち東京で生まれ育った沖縄人2世。
ライターになって後、沖縄本島・離島・台湾など自身のルーツを辿る旅をライフワークとして書き続けている(『美麗島まで』『街を泳ぐ、海を歩く』など多数)。
古波蔵氏とは、妹・登美(琉球料理の名店<美栄>創業者)と与那原氏の祖父が結婚していた縁で、親交を深めたという。
さりげなくやさしい古波蔵氏との交流が「上海蟹」の項で大切に書かれている。
他にもぽうぽう・じーまみ豆腐・くうぶいりちー等、料理ごとに家族や出会った人々との記憶・エピソードを綴る書き方は『料理沖縄物語』と同じ。
読み手の気持ちも「わたぶんぶん(おなかいっぱい)」にさせる美味しい思い出がいっぱいだ。
しかし、ルーツが沖縄でありながら旅人である著者の視点は、常にどこか望郷の念、切なさを感じさせる。
それは現代の人々が根に持つ、「故郷を失った」ような心もとなさと通じるようにも思える。
東京・沖縄・離島と移動し、老若男女と触れ合いながら、揺れ動き続ける心を書き留めた、もう一つの『料理沖縄物語』がここにある。

追記
雑誌『coyote no.51 旅人のおかえりごはん』(スイッチ・パブリッシング)においても、古波蔵保好・登美両氏が大きく特集されている。(ライターはもちろん与那原氏)
写真などビジュアルも多く収められ、読み応え有り。こちらもぜひ一緒に楽しんでいただきたい。

2015年9月25日金曜日

生の値段&本紹介(木:文芸・詩)ポール・オースター『ブルックリン・フォリーズ』

こんばんは!くじらブックスです。
今日も暑いと思いつつ、近寄る台風のことを考えています。
沖縄の離島に大きな影響が出ないことを願うばかりです。
日中は、三線の合同練習を間に挟みながら、諸々の場所へ移動、移動。
関係書類諸々を目の当たりにして、改めて「生きていくのはお金がかかるなあ」としみじみ。
しかし、それだけに価値を置いて生きるのも、違うよなあ、と。
ぼんやり考えた一日でした。

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木曜日は<文芸・詩>
ご紹介する本はこちらです。



癌闘病、離職、離婚…生きる気力を失い、人生の最後を迎えるためブルックリンに戻った男・ネイサン。
唯一の日課は、人々が起こした小さな愚行(失敗)を書き留める『人間の愚行の書』作り。思い出してはメモを書く毎日。
ところが、甥っこ・トム、奇抜な古本屋・ハリー、トムの姪っこ・ルーシーらと出会ううち、いつの間にか想像もしない物語に巻き込まれていく。
序盤はネイサンやトムの鬱屈した生活が描かれ、進みも遅い。
しかし中盤以降、ハリーのとんでもない過去や悪だくみ、ルーシーの秘密がさらされ、一気に非現実的な場所へ読者ともども引っ張っていく。まるで映画を観ているようにスリリングだ。
彼らは語り合った夢の<ホテル・イグジステンス>へ辿り着くが、ある悲劇を迎え、その先新たな始まりへと進んでいく。
登場人物たちが描く群像劇は目まぐるしく、まるでジェットコースターのよう。読者は空想と現実を行き来する。
しかしそれは<私たち自身の人生>そのもののようでもある。
印象的なのは、最後にネイサンの出した結論、そして書かれた一文。

本の力をあなどってはならない。

これはオースター自身の声ではないだろうか。
読み終えた時、名もなき人々が放つ輝き、物語(フィクション)の潜在的な力を感じ、心地よい感動に包まれる。
一気に読み終えること間違いなしの快作。

2015年9月23日水曜日

音楽の響き&本紹介(水:エッセイ・ノンフィクション)藤島大『人類のためだ。 ラグビーエッセー選集』

こんばんは!くじらブックスです。
連休最終日いかがお過ごしでしょうか。
台風21号の発生が心配です。
私は選書・読書もろもろの間に、三線の練習をしていました。
現在の課題曲は「早作田節(揚出)」。
まだまだ残念な出来ですが、それでも、音源を聞きながら弾くうちに少しずつ心地よくなります。
音楽の響きは、歌い弾くほど沁みるようです。
あせらずこつこつ、練習に励みます。

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水曜日は<エッセイ・ノンフィクション>
ご紹介する本はこちらです。




現在開催中のラグビーW杯、日本代表が強豪・南アフリカに勝利し、世界中で注目されている。
私のようなラグビー素人は、コメントできる知識も言葉も持っていない。
しかし、ニュースを聞いてとっさにある本を思い出した。それが本書。
スポーツライター・藤島大氏のラグビーエッセイを再編集したものだ。
手にしたキッカケは、出版元が<鉄筆>という新進気鋭の一人出版社であること。新刊予告を見た時から、どんな内容か気になっていた。
読んでみて、ラグビーがどんなに愛されているスポーツか、そして人を育てるスポーツかを知った。
著者が出会い書き留めるラグビーの歴史、選手・監督・OB達の姿は、勝ち負けだけではない精神の強さ、輝きを放っている。
そして何度も引用される、元日本代表監督でスポーツ哲学者、故・大西鐵之佑氏の言葉は、競技者以外にも確実に刺さる強靭さを宿している。

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 学校で教わった理性、知性は、戦場では「なんの役にも立ちません」。だから、そうなる前、戦争に突入する前に、闘争的スポーツを通じてフェアプレイを体現して、どんなに勝ちたくともここを踏み越えてはならない、という倫理を身につけた者たちが「グループをつくる」。そのグループを「社会の基礎集団・社会的勢力(ソシアル・フォーセス)」として「戦争をさせないための人々の抵抗の環」とするのだ。

 大西は、さらに「若い人たち」に向けて語った。

「権力者が戦争のほうに進んでいく場合には、われわれは断固として、命をかけてもそのソシアル・フォーセスを使って(選挙で)落としていかないと、あるところまでウワーッと引っ張られてしもうたら、もうなんにもできませんよ、私たちがそうだったんだから」

(p12より引用)
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大西氏の早稲田大学最終講義は『闘争の倫理』として出版され、広く読まれてきたという。
この言葉に感動した著者は、ラグビーを、世界中のスポーツを訪ねながら、読者に熱く真剣に語りかける。

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 戦争をするためにラグビーをしてはならない。戦争を許すためにもラグビーをしてはならない。戦争をしないためにラグビーはあるのだ。こんなことを仰々しく書いたのでは、いささか青臭いとたしなめられるだろうか。ちょっと恥ずかしいよと。そうではないと思う。傷つきやすく弱々しいかもしれぬ正論を表明できない社会は不幸である。

(p16より引用)
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これが全ての競技者・関係者の考えではないと重々わかっている。
それでも、こんな風にスポーツを語る人がいる、語られる思想があるということが、とても新鮮で驚かされた。
また、この本を今出版しようという出版社の信念も、紙面からひしひしと伝わってくる。
観戦者の立場から、改めてラグビーを、スポーツを知り関わってみたいと思う。
私のように距離を感じている人にも、一度手に取って読んでみてほしい1冊。
W杯を観てみたくなること間違いなしだ。

※9月28日には同出版社より大西氏の『闘争と倫理』が復刊予定。
※こちらも大注目の1冊。読んでみたい。

→ (株)鉄筆


2015年9月22日火曜日

アートの愉しみ&本紹介(火:児童書・絵本)安野光雅『もりのえほん』

こんばんは!くじらブックスです。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今日も気持ちよく秋晴れした沖縄。
混み合う道路を抜け、那覇に出かけておりました。
『渦まく光/スモモムラ 石田尚志ドローイング展』@古書店・言事堂(9/18-10/3)
『「 転 転 と 、」中田 篤 ◇ 中田 有香』@陶・よかりよ(9/11-9/23)
2つの展覧会を、眼で見、空間で感じてきました。
近い距離で見るアートは、大きな美術館で見るスケール感とまた違い、作家・作り手と向き合うような親密さが感じられます。
それが緊張するようで、でも心地よく、楽しい体験でした。
お時間の合う方は、ぜひそれぞれの店頭に訪れて感じていただければと思います。
美術関係にうとい私ですが、一足早く芸術の秋を味わいました。

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火曜日は<児童書・絵本>
ご紹介する本はこちらです。


『もりのえほん』 著:安野光雅 出版社:福音館書店 価格(本体):800円

一見すると、緑の森の風景画が延々と並んでいる、シンプルな絵本。
しかし、一度じっと眺めてみれば、細かな枝葉や木の幹に、信じられないほど沢山の動物や生き物等々が隠れている!
時間を忘れて探すうち、全ての線が別の何かに見えてくる、不思議気分も味わえる。
(我が家でも30分近く「九州の地図」を探しました)
繊細な美しさとワクワクする楽しみがひとつになった、いつまでも味わえるアート絵本。
緑・黒・白の柔らかな色合いが、懐かしい記憶も呼び起こす。
読みながら、森を散歩する子どもの好奇心を思い出せるはず。
忙しい大人も、没頭し心地よく癒される、休日に最適の1冊。
家にいながら、この本で自然を体験するのも良いかもしれない。

2015年9月21日月曜日

布団と太陽と珈琲&本紹介(月:仕事・ライフスタイル)大瀧純子『女、今日も仕事する』

こんばんは!くじらブックスです。
連休中、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
私は先週用事で出回った分、一日のんびり過ごしていました。
午前中に布団を干し、シーツを洗い、三線の練習。
午後から母と那覇市・久米の某珈琲店へ行き、美味しい珈琲と落ち着く店づくりを体感しました。
こんな日があると、気持ちがリセットされて良いですね。
さて、また来週以降に向け、ぼちぼち準備を始めます。

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※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
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月曜日は<仕事・ライフスタイル>
ご紹介する本はこちらです。



「まっすぐで一生懸命、人として尊敬できる女性なんだろうな」
読了後、まっさきに浮かんだ感想がこの一言。
<オーガニックハーブ製品販売会社・女性CEOの仕事本>
概要だけならばいかにも成功を謳った自己啓発モノのようだが、実際は全く違う。
結婚・妊娠・出産・転職・クビ…、自身の経験を私事・仕事の区別なく語っている。そこまで言っていいの?と思うほど正直に、失敗や苦悩もさらけ出す。
それは<ワークとライフを分けない>という著者の信条そのものだろう。

「仕事は人生の一部である。仕事は人生そのものなんだ」という見方をすれば、分けるよりも「重ねる」。どうやったらきれいに重なるのか、美しいハーモニーになるのかを、考えていけたらと思っています。
(p133)

結婚しても、妊娠出産を経ても、働きたい!と思い、自ら仕事や働き方を作り出してきた女性の言葉は、単純化された成功物語よりずっと勇気をくれる。
世間や常識に対する「違和感」を捨てず、コツコツ向き合う大切さを教えてくれる。

著者と珈琲を飲みながら隣で語り合っているような、親しみを感じる、温かみのある本。
自己啓発・ビジネス書ではなく、生き方本として読んでみてほしい。

読んで語ろう&本紹介(日:勝手に選書!)「小泉武夫先生」

こんばんは!くじらブックスです。
今日は午前中、北中城村・OMAR BOOKSさんで読書会。
その後、西原町・ブックカフェBookishさんで本モアイ(月に一度、親を決め本を贈り合う寄合)でした。
本を媒介に会話するのは、刺激的でとても面白い!
人が変われば話題もさまざま。自分だけでは到達できない思考の飛躍も楽しい。
皆さまも機会がありましたら、読書会など、どうぞ参加してみてください~!

→ OMAR BOOKS
  定期的(月2~3回)に読書会を開催されています。
→ ブックカフェ・Bookish
  今期の本モアイは募集終了。他にもイベント多数開催されています。

さて、今週は総合テーマ<食>で本をご紹介してきました。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

日曜日は<勝手に選書!>
「味覚人飛行物体」「鋼鉄の胃袋」「発酵仮面」などなど。
さまざまな異名を持つ発酵学の重鎮、「小泉武夫先生」
先日連続講義を受講したところ大変面白かったので、改めてご著書から4冊をご紹介します。


出版社:集英社インターナショナル 価格(本体):※出版社品切※

書店に勤めて1年目、店頭でこの表紙を見た時の衝撃は忘れられない。
「この人はなぜこんなに嬉しそうに蜘蛛を咥えるのか?」
ページをめくれば、蜘蛛・蛇・虫・カエル…あらゆる動物料理のカラー写真満載。
また、アジア諸国の食・自然・文化・人についても、解説と共にたっぷり紹介されている。
あらゆることに好奇心を持ち飛び込んでゆく先生は、まさに冒険家。
飛び込むだけでなく、地元の文化や歴史を尊重する姿勢には、研究者以上の人間力を感じさせる。知らない世界の広さを知り、好奇心を掻き立てられた。
興味を持った方にはぜひ手に取り、カラフルな未体験世界を楽しんでいただきたい。





先生が教授を務めていらした東京農業大学での最終授業を収めた『ミラクル食文化論』は、<食>を縦軸として、ヒトが生まれ経てきた歴史・文化・宗教、そこから繋がる食文化の発展・充実について、壮大な一つの流れとして解説されている。
小泉食文化論の集大成ともいえる1冊。
そして、専門分野である<発酵食品>について、新書ではありえない文字数・分量で解説を加えた『発酵食品礼賛』。
今まで知らなかった身近な食物の力、発酵の可能性と面白さに目覚めること間違いなし。
この2冊で、小泉先生の講義を疑似体験してみてほしい。
歴史や文献、科学的な理論に基づいた確かさと、そこから飛躍する発想力・着眼点を学ぶことができるだろう。



上の2冊が学問的楽しみを与えるとしたら、小泉先生は読む楽しみを与える痛快エッセイも多数、書かれている。
この本は日常・旅先で出会ったあらゆる<不味い>ものだけを語った異色作。
観光地のお膳・ホテルの朝食・駅弁や街弁など、つい頷いてしまうものから、シュール・ストレミングやホン・オフェなど珍味まで。
不味い不味いと言いながら食べ続けるその食欲と好奇心、強靭な胃袋が羨ましい。
他にも『食(く)あれば楽あり』『奇食珍食』など、気軽に楽しめるエッセイ集から小泉ワールドを垣間見るのもオススメだ。

「自分にとって、食べるとは何だろう」「美味しいってなんだろう」
今まで無意識に済ませてきた<食>について、改めて捉え直し、一食一食を大切に楽しみたいと思いました。
興味を持った方にはぜひ、お好きな本を選んでご一読いただきたいです。

2015年9月19日土曜日

パンを焼く&本紹介(土:ノージャンル)橋本治『バカになったか、日本人』

こんばんは!くじらブックスです。
沖縄は一日中晴れ、良い天気でした。
私は明日の読書会の準備など、勤しんでおりました。
母がパン焼き器でゴパン(米入りパン)を焼いたので、一緒に食べつつ、あれこれ試作もしてみたり。
何だかうまくいきそうな…。どうでしょう。
パンが焼ける香りは幸福感を運んでくれますね。

さて、今週は総合テーマ<食>でご紹介してきましたが、
土曜日は<ノージャンル>のため、ちょっと別テーマで選びました。

※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

ご紹介する本はこちらです。



多彩な評論活動でも知られる作家・橋本治が、2011~14年にかけて各媒体で発表した時事評論をまとめた一冊。
東日本大震災から特定秘密保護法、集団的自衛権の解釈まで、ひたすら「自身がどう考えるか」を冷静に書き尽くす。
小泉~安倍政権に対する冷静な指摘は、2015年現在の状況をそのまま暗示しているかのようで驚く。
(ご本人は、考えればわかるでしょと思っていそうだけど)
中でも<「強いリーダーなんかいらない」「みんなで考えよう」というのなら、国民も責任を持たなければいけない>という指摘は、今とても重要な考え方だろう。
挑発的なタイトルにも、特定の人々を咎めたり、批判する意図はない(はず)。
「なにかへんだな?」「わからない」と思うなら、それを素直に認め、声をあげ、さらに「言うべきことは何だ?」と、自分の頭で考えろ。そう問いかけ、戒めている。
「自分はこう思う」というスタンスにおいて、橋本治はブレない。
著書を読む度、思考停止せず考え続ける大切さを思い出させてくれる、今こそ読まれてほしい作家の一人だ。

2015年9月18日金曜日

食べて生きる私&本紹介(金:沖縄本)古波蔵保好『料理沖縄物語』

こんばんは!くじらブックスです。
今週は遅い更新になっています。
連日受講したR大学公開講座「発酵学」も、今日が最終日。
ずっと座り続ける授業というのも久しぶりで体が固まりそうに…。
しかし、普段おざなりにしていた「食」について改めて考えることができ、充実した時間でした。
これからもっと積極的に、料理してみたいと思います。
できるでしょうか…ぼちぼち、やってみます!

今週は総合テーマ<食>で本をご紹介します。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

金曜日は<沖縄本>
ご紹介する本はこちらです。


『料理沖縄物語』 著:古波蔵保好
出版社:作品社 価格(本体):※出版社品切※
県内図書館・古書店にお問い合わせください。

読みながらつい「素晴らしい」と言いたくなるエッセイとは、どんなものだろう。
自分なりに考え、以下2点が思い浮かんだ。
・さらっと自身(の記憶・思い出)から始まり、いつの間にかテーマに着地させる筆力
・無駄なくせ、嫌味がなく、読んで気持ち良い、のどごしの良い文章
いずれも今回紹介する『料理沖縄物語』を読み、浮かんだ言葉だ。

明治の首里に生まれた著者が、幼い頃見た街の風景、旧暦の行事、家族の思い出を描きつつ、懐かしい沖縄料理をレシピも含め書き留めていく。
豚あぶら、らふてえ、あんだんす、ぽうぽう、芋くじあんだぎいなどの家庭料理は、私も読むだけで味を思い出し懐かしくなる。
<最高の正餐>とされた三献の料理、五段の料理については、その豊かなようすを想像し食べてみたいと願う。
戦前の沖縄が目の前によみがえってくるような読み心地と、著者の家族(特に母・妹)への深い愛情が、文章のすみずみから伝わってくる。
古波蔵保好氏は戦後新聞記者として働いた後、東京沖縄を行き来しながら、エッセイストとして活躍されたそうだ。
変わり移ろう現代と変わらない思い出を、遠く近く見つめながら描かれた素晴らしいエッセイ集。
読後、母と一緒に料理したい、母の味を失くさないよう受け継ぎたい、と素直に思わされた。

感謝と共に&本紹介(木:文芸・詩)福永武彦『廃市・飛ぶ男』

こんばんは!くじらブックスです。
世間ではさまざまな出来事が変化し続ける毎日、いかがお過ごしでしょうか。
私も自分なりに考えつつ、コツコツ日々を重ねています。
昨夜は前職場の送別会を開いてもらい、たくさんの同僚に挨拶することができました。
今日はR大学の帰り、今後の仕入れ等について、BOOKSじのん・天久さんにご指導いただきました。
振り返ると改めて、いろんな方々にお世話になっているんだなあと感じます。
お世話になった分、懸命にそして楽しくやっていこうと、気持ちが高まります。
この感謝を忘れずやってまいりますので、今後ともよろしくお願いします。

今週は総合テーマ<食>で本をご紹介します。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

木曜日は<文芸・詩>
ご紹介する本はこちらです。



詩人・小説家・仏語翻訳・古典現代語訳など、昭和を代表する文学者・福永武彦。
代表作『草の花』等の長編小説だけでなく、短編にも優れた作品が多い。
この短編集は、映画化された「廃市」、SF的な設定の「未来都市」、意識を言語化したような「飛ぶ男」等、いずれも読み応えある作品が集められている。
また個人的に何度読み返しても飽きない、「風花」という一編も収録されている。

「風花」は、一人病床につく男が風花(ちらちら舞う雪)の降る様を見て、人生のさまざまな記憶を振り返るというシンプルな内容。エピソード描写が細かく、場面場面が鮮明に、目の前に現れるように描かれる。
破たんした結婚生活、息子との触れ合い、若い頃の淡い恋など、鮮明であればあるほど、現実に戻ったときの淋しさが際立つ(病室には誰も来る気配がない)。
そして最後、無口な父との思い出で、福永作品では珍しくユニークな食の場面が出てくる。
父の友人・西田さんは、会うといつも欠けた前歯の間から曲芸のようにつるつると蕎麦を食べる。話の中で唯一と言っていいほどおかしいシーンだ。
その様子をじっと見ては愉しみ、初めて見る風花にはしゃぐ、幼い自分。それを見守る父。
現実に戻れば男は一人、誰もいない病室の中、最後の時を待っている。
淋しいはずだが、男は「それでもいい。人を愛し、人に愛された記憶を持ち、ただ自分ひとりの命をいとおしんで生きていくだろう」と清々しい気持ちに至る。
一つ一つの記憶の中、自分が愛し、愛されていたことを、思い出せたからだろう。

たとえどんな状況になったとしても、辿ってきた道と関わってきた人々を思い返せば、進んでいくことができる。
そんな静かな勇気とあたたかさを与えてくれる、心に残る一編だ。

2015年9月16日水曜日

大学を楽しむ&本紹介(水:エッセイ・ノンフィクション)『被差別の食卓』

こんばんは!くじらブックスです。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今日はまたR大学の公開講座に行ってきました。小泉武夫先生の「発酵学」。
メコン川流域に広がる発酵食品文化の数々を、ノンストップで語り続ける先生。
その情熱と元気に学生・聴講生の方が圧倒されてしまいます。本当に興味が尽きません。
それでも、居眠りして注意される子や、キャンパスをのんびり歩いている子たちを見ると、自分の学生時代を思い出します。
懐かしいなあ。
90分3コマ連続は結構ハードですが、社会人には楽しい授業です。

そして今週は総合テーマ<食>で本をご紹介します。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

水曜日は<エッセイ・ノンフィクション>
ご紹介する本はこちらです。



大阪の被差別部落出身である著者が、世界中の<被差別民>を訪ね、<食>について聴き込み綴った1冊。
アメリカ南部の黒人、ブラジル奴隷、ブルガリア・イラクのロマ(漂泊民)、ネパールの不可触民。それぞれのソウルフードを共に食し、語り合い、自身のルーツと重ねながら記録する。
最後に行きついたのは、旅の出発点でもあった著者の母が作った<あぶらかす>。
ソウルフードとは、それぞれの家庭の味、母の味だった。
生活から生まれてきた<食文化>を、卑下することなく残しておきたいと願う、著者の想いを感じた。
読書中、各国料理の中にいくつも沖縄料理との共通点を見つけた。
母と話し、「これ同じだね」というものもあった。
世界と沖縄のつながりのように感じられ、興味深かった。

<被差別>と名付けることが、余計に差別を助長する、現代では消えた差別を掘り起こすように感じる人もいるかもしれない。とてもデリケートな問題だと思う。
今、私個人は生きている中で差別を感じていない。
しかし、かつて沖縄にも確かに差別は存在していた。今も気付かないだけ、口にしないだけで、あらゆる場所に差別は存在している。私自身が無自覚なだけで。
かつてあったものを知らず、なかったことにしてはいけないし、今盲目になってもいけない。
そんな当たり前のことを改めて考えさせてくれる本だった。

2015年9月15日火曜日

体を考える&本紹介(火:児童書・絵本)『十二の真珠』

こんばんは、くじらブックスです!
今日は朝から少し調子が悪く、家で大人しく過ごしておりました…。
午後には大分良くなり、ほっとしています。
主に眼精疲労と頭痛・首肩こり等で、普段は平気なのですが、時々「体が動かない!」という日があり、困ってしまいます…。
人間ドックは正常数値なので「普段の生活改善だよなあ」と思い至りました(当たり前)。
この機会に、いろんな面で自分の体とどう向き合うか、考えてみたいと思っています。
ぼちぼち頑張ってまいりますー!
公開講座も明日から再度、参加してきます。

そして今週は総合テーマ<食>で本をご紹介します。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

火曜日は<児童書・絵本>
ご紹介する本はこちらです。



『十二の真珠 -ふしぎな絵本-』 著:やなせたかし
出版社:復刊ドットコム 価格(本体):1800円

アンパンマンの大ヒットで知られるやなせたかし先生。
しかし、自ら遅咲きとおっしゃるように、アニメ化される1988年頃まで一般的な知名度は低い作家でした。
この1970年発表の童話集には、12の短い話が収録されています。
童話ですが決して甘ったるい内容ではなく、どれも人の持つ悲しみや切なさを含んでいます。
中でも名作絵本『チリンのすず』、そして『アンパンマン』の原型となる話が印象的です。
『アンパンマン』は今の姿と全く異なり、ただの太りすぎのおじさん。子どもや本物のヒーローに蔑まれるほどです。それでも戦場へ飛んで行き飢えた人々へアンパンを届けますが、最後は砲撃を受け死んでしまいます。
『チリンのすず』は、両親を狼のウオーに殺された子羊チリンが、強く生き残るため、ウオーに弟子入りします。狼と見紛うほど強くなったチリンは、ウオーと共に羊小屋を襲う計画を立てますが、それは復讐の始まりでした。復讐を遂げた時、チリンは…。
他にも『ジャンボとバルー』は、戦争により食べるものがなくなったとき、みんなに愛された象・ジャンボを食べるかどうか、小さな国の王様が決断を迫られるという、シビアな話。
どの作品にも、きれいごとではない人の苦しみ・悲しみが真摯に描かれており、先生自身の戦争体験も背景に感じられます。
(<食><飢え>をテーマにされるのも、そこからきているように思います)
つらい現実から目をそらさず、それでも表現の持つ力を信じて発信し続けること。
そして照れくさいくらいの感動・ロマンチシズムを持ち続けること。
やなせ先生の作品からは、そんな信念を感じます。
アンパンマンなんて子供向け…と思わず、大人の方にこそ、原作絵本や、やなせ作品をお手に取ってほしいです。
きっと美味しいものを食べた時のように、心が満たされるはずです。

2015年9月14日月曜日

発酵学!&本紹介(月:仕事・ライフスタイル)『まいにちトースト』

こんばんは!くじらブックスです。
阿蘇山の噴火に驚いています。
今月末~来月初め九州旅行で訪れたいと思っていたので…。
自然災害のニュース、他人事にせず、自分も気を付けて過ごそうと思います。
皆さまもどうぞお大事にお過ごしください。

今日私は、R大学へ潜入。
発酵学の重鎮小泉武夫先生の集中講座を受講するためです!
世界中で発酵食品を食べ歩き、多数の著書を発行、沖縄でもさまざまな食文化振興に協力されている小泉先生。
就職したばかりの頃、先生の本を読みあまりの豪快さ・探求心に脱帽。いつか講義を聞きたいと思っていました。
客員教授を務めるR大にて無料の公開講義をされると知り、即申し込み。
初日から発酵についての歴史~酒・塩の話まで、面白すぎる!
無料で5日間受講できるなんて、感無量。
今週いっぱい頑張ります~!
小泉先生の本については、今週末の<勝手に選書!>でご紹介したいと思います。

そして今週は総合テーマ<食>で本をご紹介します。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

月曜日は<仕事・ライフスタイル>
ご紹介する本はこちらです。


『まいにちトースト + だいすきもちもちパン』として改訂版発売

最近我が家の朝食はもっぱらパンとトーストです。
お店で出せるような、美味しいトーストを研究しよう!と始めたのですが、毎日試行錯誤。
パンの種類・厚さ・バターやマーガリン・トッピングをどうするか等々。
考えれば考えるほど、試せば試すほどトーストは深い!そして美味しい!シンプルな魅力を楽しんでいます。
この『まいにちトースト』は、その名の通りトーストのアレンジレシピがイラスト入りで詰まった1冊。
癒し系キャラ・こげぱんの生みの親でもあるたかはしさん、かわいらしく美味しそうなイラストが最大の魅力。絵本のように何度も読んで楽しめる、読み物としても優秀な料理本です。
毎日のトーストレシピにひと工夫したい方、ぜひ参考にご一読ください。
うちのオススメは、四枚切りをカリカリに焼いたバタートースト。
シンプルイズベスト、です!

ちなみにパンも発酵食品。
発酵はいろんなところに関わっているんですね~。

思い出すことなど&本紹介(日:勝手に選書!)「人間と動物」

こんばんは、くじらブックスです!
今日の選書を考えていたら、こんな時間になっていました。
皆さまどんな一日を過ごされたでしょうか。

先ほどテレビを流し見ていたら、お笑い芸人の方が実家をリフォームする、という番組を放送中。
親孝行に協力しようと、地元の同級生が大勢手伝い、感謝感激大号泣、というなかなか良い話でした。
そのとき、ふと「自分の同級生は何をしているのかなあ」と思い出しました。
今まで前ばかり見て、振り返ることを半ば拒否していた私。
直接会うことはなくても、地元の風景を眺めて過去を思い出すのもいいかもしれない、と思うこの頃です。

さて、今週から曜日ごとにテーマを決めて本をご紹介しています。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

日曜日は<勝手に選書!>
テーマを決めて、くじらブックスなりの3冊をご紹介いたします。
今週のテーマは、くじらブックス開始にちなんで「人間と動物」です。
可愛いだけじゃない、人とつながる<生物>としての動物について書かれた本をご紹介します。



霊長類・ゴリラ研究では日本を代表する著者は「人間が人間たるゆえんは「家族」にある」と考察。
祖先を同じくするゴリラ・チンパンジー・サルの生態を調査・比較することで、人類社会や家族が作られた過程を辿る。
他種を受け入れ、勝ち負けを決めず、相手の意図を汲み取るというゴリラは、知れば知るほど魅力的だ。
かつて自分たちも持っていたはずのゴリラ的な良さを、人類は捨ててしまってはいないだろうか。
現代社会に対する問題提起も鋭い1冊。

 

知っているようで知らない、イルカの生態や社会性。
科学的な研究結果を図も加え詳しく解説、新書サイズながら専門的で充実している。
さらに、著者が20年に渡って続けてきた<イルカと話す研究>について書かれた部分を読むと、合図を理解し言葉をしゃべるシロイルカ・ナックにびっくり、「本当に話せる日がくるかも!」と思わせてくれる。
イルカの能力と、夢を追い続ける著者の研究者魂に感服。


 
フィクション・ノンフィクションに限らず多彩な活躍をしている作家・川端裕人。
この本では、世界の様々な動物園を取材し、その存在意義について考察する。
娯楽施設でありながら、種の保存施設としても必要といわれる動物園。
それは自然に対する人間の過干渉・エゴではないのか。
苦悩する現場担当者の言葉に、複雑な実情がうかがい知れる。
人と動物がどう共存していくか考えるとき、貴重な視点を与えてくれる良書。
絶版なのが惜しまれる。

いずれの本も、動物について書きながら、人間自身を見つめ直す視点を持っています。
機会がありましたら、ぜひご一読ください。

2015年9月12日土曜日

読書会の楽しみ&本紹介(土:ノージャンル)『今日も盆踊り』

こんばんは!くじらブックスです。
沖縄も夜になると、少し涼しさを感じる季節になりました。
日中はまだまだ暑いのですが…。
皆さまはいかがお過ごしでしたか。

今日は北中城村にあるOMAR BOOKSさんへ伺っていました。
沖縄でも珍しいセレクト(提案)型本屋として人気のOMARさん。
月に数回、課題図書を読んで参加する<読書会>を主催されています。
今年7月に行われた公開読書会も大好評(沖縄タイムス紙にてご紹介されました
私自身何度も参加し、楽しませていただいてます。
次回9月20日(日)には進行役を務めるため、今日は少し打ち合わせ。
課題図書はポール・オースター『ブルックリン・フォーリーズ』。
これが読みやすくも味わい深い作品で…みんなで語り合うと面白くなりそうです!
興味をお持ちになった方、ぜひOMAR BOOKSさんまでお申込みください。
語り合うことで、読書の新しい楽しみ方が味わえると思います。
→ OMAR BOOKS

さて、今週から曜日ごとにテーマを決めて本をご紹介しています。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

土曜日は<ノージャンル>
ご紹介する本はこちらです。



盆踊りにハマったお二人が、全国津々浦々、新旧さまざまな盆踊りを体験・レポートする本。
同じく日々盆踊りへ通う愛好家の方がいれば、地元で合宿をしながら伝統を受け継ぐ方々。
盆踊り曲をつくる作曲家、新たな踊りの場をつくる方、それを共有するWEBサイト運営の方などなど。
体験談からインタビュー、コラムまで内容盛りだくさん。
ふざけているようで、しっかり作られていて読み応えがあります。
何気なく知っていた盆踊りに、コアでディープな世界があったのか、と感心。
と同時に、無心に踊ることで生まれる<解放感>と世代を超えて人々が集う<場>としての祭りの意義が、伝わります。
現代にも必要とされ人々に愛されている理由なんだろうなあと、感じさせられました。
一つの現代文化論としても読める面白い1冊です。

追記
沖縄の盆踊り、といえばエイサーですね。
うちの近所でも、子ども会が練習するパーランクーの音が聞こえてきます。
でも実際のところ、小中学生を過ぎれば青年会に入らない限り、滅多に踊ることはありません。
個人的にはもう15年くらいは踊っていませんね。
これって、かなり、もったいないことかもしれません。
地元の人間が地元の文化に参加する、機会と気持ちがもっと高まったら…。
三線を始めてつくづく思います。
とりあえず、まずは積極的に観に行ってみよう!と決めました。

2015年9月11日金曜日

たまには並んでみる&本紹介(金:沖縄本)『沖縄基本文献リスト』

こんにちは、くじらブックスです。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今日も各地のニュースが耳に入ってきます。
お一人でも多くの方のご無事を祈っております。

沖縄は真夏に戻ったかのような、強い強い日差しが暑い!
そんな中、地元市役所へ。
保険の切り替え手続きと、「<プレミアム付商品券>を買ってきなさい」という母の指令を受けたためです。
午前中覗いてみると、役所出入り口から延々と続く、長蛇の列。
ここに並ぶのか…と考えただけで心が折れ、とぼとぼ帰宅。
(「買わなくてもいい?」と母にLINEするも返信なし)
この時点で面倒くさがりの私は「もう嫌だ」という気分でしたが、無職の身でそんな贅沢言ってられません(自虐)
考えてみれば、働いていた頃は、お金を多く出しても時間を節約したいと<効率>ばかり考えて生活していました。
が、今、そんなに焦る必要はありません。時間はそこそこあるのです。
家計と地元経済に貢献しよう、皆さんを見習って並んでみよう、と覚悟を決め、午後再訪。
するとあっさり5分ほどで購入。あれれ、拍子抜け。
というか、そんなムダな決心をしたやつは私だけだったでしょう…。
せっかく買った商品券、チェーン以外のお店で使ってみたいなあと思います。

さて、今週から曜日ごとにテーマを決めて本をご紹介しています。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

金曜日は<沖縄本>
ご紹介する本はこちらです。



『夢屋書目1 沖縄基本文献リスト』 発行:夢屋書店

自宅で在庫整理をした際、父の蔵書から発見。
1991年発行・沖縄関連書の目録です。
発行元は那覇市首里の古書店・夢屋書店となっています。
「本編は、ロマン書房本店の指導のもとに作成されました」
「比較的入手可能な古本と新刊書をピックアップしました」
と冒頭に書かれている通り、たくさんのタイトルが分類ごとに記載されています。


いかにもという学術書・文献から、コミックや民謡EPもあるところが面白い。
約24年前の資料ですが、これからどんな本を仕入れるか考える時、参考になりそうです。

残念ながら、私は夢屋書店さんを存じ上げません。
検索でも見つからないため、現在は営業されていらっしゃらないと思います。
ただ、この目録を読むと、お店の一生懸命な姿勢が感じられ、当時のことを想像させます。
本屋としては、また別の楽しみ方ができる気がします。
一般書籍以外の資料や目録を読んでみるのも、面白いですね。

2015年9月10日木曜日

<イベント参加のお知らせ>

<イベント参加のお知らせ>

 2015年10月4日(日)佐賀県佐賀市にて開催されます、
『一箱古本市in BOOK マルシェ佐賀』に参加いたします!

『BOOKマルシェ佐賀2015』

「店がないなら、町へ出よう!」
ということで、一気に沖縄県外へ飛び出します。
当日は県産本出版社・ボーダーインクさんのバーゲンブックも少し販売します。
この機会に沖縄県産本にも興味を持っていただければ幸いです。
佐賀県の皆さま、近隣の皆さま、よろしくお願いいたします。

話す楽しみ&本紹介(木:文芸・詩)谷川俊太郎詩集『私』

こんばんは、くじらブックスです。
大雨による災害のニュース、ずっとメディアで流れてきます。
自分の状況とあまりに違うので、正直信じられないような気持ちです。
お一人でも多くの方のご無事を祈ります。

私は今日、三線の練習(新しい曲ができずへこむ)後、いくつか挨拶やお願いに行きました。
家内作業が多いので、友人知人と会って話すのが楽しいです。
もっと外に出るように心がけます!(無職らしいセリフ)
そしてご協力いただいた試みがうまくいくよう、いろいろ準備頑張ります!

さて、今週から曜日ごとにテーマを決めて本をご紹介しています。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

木曜日は<文芸・詩>
ご紹介する本はこちらです。




谷川俊太郎といえば、教科書にも載っている現代日本を代表する詩人。
処女詩集『二十億光年の孤独』は、発売から60年以上経った今も広い世代の人々に愛されています。
また、長く詩を書き続ける谷川さんの作品は、その時期ごとの変化や味わいも感じられます。
この『私』は、2007年発行。
自身の老いを見つめるゆえか、全体的に言葉が静かに、寂しく響きます。
しかし、そこには自分以外の<あなた>へ向かう愛情や優しさも漂っています。

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私は自分が誰か知っています
いま私はここにいますが
すぐにいなくなるかもしれません
いなくなっても私は私ですが
ほんとは私は私でなくてもいいのです

私は少々草です
多分多少は魚かもしれず
名前はわかりませんが
鈍く輝く鉱石でもあります
そしてもちろん私はほとんどあなたです

忘れられたあとも消え去ることができないので
私は繰り返される旋律です
憚りながらあなたの心臓のビートに乗って
光年のかなたからやって来た
かすかな波動で粒子です

----------------------------------------

(「私は私」より一部引用)

この詩を初めて読んだ時、特殊な言葉がないのに不思議と印象に残り、何度も読み返しました。
そして何度読んでも新鮮に感じられることに、驚きました。
<私>と<あなた>の関係をこんなにシンプルに、印象的に表現できるものなのか、と。
終わっていく命と続いていく世界の普遍性が、沁みるように広がっていきます。
詩が持つ言葉の力を感じられる1冊です。
どの書店・図書館にも谷川さんの詩集はあるはずです。
機会がありましたらぜひ、ご一読ください。

2015年9月9日水曜日

少しずつ知る日々&本紹介(水:エッセイ・ノンフィクション)『アジアを生きる』

こんばんは~!
くじらブックスです。
今日はちょっと遅めの更新です。
本土に台風が上陸、さまざまな被害のニュースを見ていると、心配になってきます。
皆さまどうぞお大事に。沖縄から祈っております。
危険な時は無理に外出しないでくださいね~(県民アドバイス)

昼は、県生涯学習推進センター主催
無料講座「資料で見る沖縄の近現代史」を受講してきました。
「琉球処分」について時系列に沿って解説を伺い、とても勉強になりました。
と同時に、自分の知識不足を実感し、情けなくなったり…基本的なことすら知らない…。
それでも恥ずかしがらず、これから少しずつ、知っていこう。
そう決意する日々です。

さて、今週から曜日ごとにテーマを決めて本をご紹介しています。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

水曜日は<エッセイ・ノンフィクション>
ご紹介する本はこちらです。



詳細は<WEBストア>

タイ・ベトナム・フィリピン・ミャンマー(ビルマ)・ラオス・ネパール・中国。
作家・灰谷健次郎さんと写真家・石川文洋さんが、
共にアジアを旅し、出会った人々の姿を描いたエッセイ・写真集。
ひょうひょうとした文体に、気取らない人々の表情・アジアの風景がベストマッチ。
特に人々の笑顔は美しく、眺めるだけで清々しい空気を運んでくれる。
石川文洋さんの写真大好きです。
読み進めれば、美しいだけでない、貧しい現実も伺える。
しかし、懸命に生きる個人を見る二人の目はやさしい。
アジアを旅し、垣間見るには最適の1冊。

2015年9月8日火曜日

机に浮かぶ面影&本紹介(火:児童書・絵本)『たしかめてみよう たのしいかがくあそび』

こんにちは!
くじらブックスです。
台風が2つも発生しているようですが、沖縄は晴れ。
気持ち良い風も吹いています。
こんな日はどこかへ出かけたくなりますね…。
そんな気持ちを抱えつつ、こつこつ作業をしています。


作業用に、ちょうどよい机を探して設置。
(クリーニングの時薬品の匂いがこもるので、窓辺に移動)
この机、父が実家から持ってきたもので、小さい頃から使っているそうです。
父が家を出てからは、読書好きの祖父がよく使っていたとか。
長く使っていると<もの>にもいろんな記憶が宿るんだなあと、しみじみ。
よし、頑張ろ~!

さて、今週から曜日ごとにテーマを決めて本をご紹介しています。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

火曜日は<児童書・絵本>
ご紹介する本はこちらです。


『たしかめてみよう たのしいかがくあそび』
著:ローズ・ワイラー、ジェラルド・エイムズ 絵:タリバルジス・スチュービス 翻訳:吉村証子
出版社:福音館書店 価格(本体):※出版社品切※

こどもに向けて分かりやすく説明された科学絵本。
「みずのじっけん」「くうきのじっけん」「おとのじっけん」「じしゃくのじっけん」と4項目あり。
実際に試したくなる、簡単実験がいっぱい。
鮮やかな色と可愛らしい絵柄(100%ORANGEを思わせる)がおしゃれで、大人が見ても目に楽しいです。






手元の在庫は1991年第34刷!(初版は69年)。
34回も増刷されたロングセラーが、現在は品切れなのが残念…。
県内いくつかの図書館で在庫があるようなので、気になった方はお手に取ってみてください。
※くじらブックスの在庫もお問い合わせ伺います※

2015年9月7日月曜日

沖縄も雨模様&本紹介(月:仕事・ライフスタイル)『仕事文脈』

こんにちは!くじらブックスです。
晴れ続きから一転、沖縄も雨模様です。
昨夜仕入れに出かけたら、帰りは前も見えないほどの豪雨になりました!
台風も近づいているようで…。
本土の皆さま、どうぞお気をつけください。

さて、今週から曜日ごとにテーマを決めて本をご紹介します。
まだ実店舗のないくじらブックスに並んでいるところを想像していただければ…。
※手元に在庫がある本もございます。
※気になった方は、お近くの書店・図書館または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

月曜日は<仕事・ライフスタイル>
ご紹介する本はこちらです。


『仕事文脈 vol.3 女と仕事』
(年2回春・秋発行、現在vol.6まで) 出版社:タバブックス
価格(本体):vol.1/476円、vol.2/500円、vol.3以降/600円

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『仕事文脈』とは?

すべてのゆかいな仕事人に捧ぐリトルマガジン、『仕事文脈』。
すてきなくらしの前に、仕事の話を。
流行のあれやこれを買う前に、お金を得る方法を。
勝ったり負けたり夢見たり嘆いたりするよりも、まず働いて生きることを。
気になる働き方、ないようである仕事、なんとかなる生き方など、
仕事のあれこれをとりあげる小さい雑誌です。

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(タバブックスHPより引用)

2012年に創刊された仕事に関するミニコミ誌。
『地方と仕事』『大きい仕事、小さい仕事』『旅と仕事』など、各号特集タイトルを見るだけで興味が湧いてくる。
登場する人々も、就活生、無職、田舎で自営業、プログラマ、編集者、非正規雇用、ミュージシャンなどなど。
多様な人々がそれぞれの仕事(一般的には仕事と定義されないかもしれないものも)について語る。
これが本当に面白い。
単純な「自分探し」「モラトリアム」「就職しなくていい」という言葉を語る人は皆無。
ただ、「何か違う」という感覚から目をそらさず、仕事・働き方について考え、悩み、日々できることをしている。
特にこのvol.3は『女と仕事』ということで、女性たちの正直な現状告白や考察がまとめられていて、興味深い。
人々の言葉を読めば、勇気づけられると同時に自分自身の「仕事」をどう捉え、向き合うべきか、考えさせられる。
この『仕事文脈』は私の独立心に少なからず影響を与えた、と思う。
「働く」ことについて考えている、老若男女にオススメしたい。

発行人であるタバブックス代表・宮川さん自身、長いフリー編集者経験の末、出版社を起業。
<おもしろいことを、おもしろいままに本にして、きもちよくお届けする。>ことをコンセプトに、ひとり出版社を切り盛りされている。
(詳細は『“ひとり出版社”という働きかた』(河出書房新社)に詳しい)
他にも個性的な本を発行されているので、ぜひ他のタバブックス発行書籍もご覧いただきたい。
タバブックスHP

2015年9月6日日曜日

一日の過ごし方&本紹介『家庭の医学』(レベッカ・ブラウン)

こんにちは~!くじらブックスです。
昨夜、本をクリーニングしたり値付けしたりしていたら、深夜になってました。
ペース配分しないと、生活/仕事が分けられないと今さら気付き…いけないいけない。
読書する時間も取れないのは困る。
今朝も、起きて、食事して、三線練習したら、もうお昼。一日はあっという間。
どんな生活をしていても、自分自身がどう過ごすかが、大切なのですね。
また一つ実感しています。

さて、今日ご紹介する本はこちら。


※出版社品切れ中※
知人・友人の方、興味ある方、販売又はお貸しします

書店員としてはお恥ずかしいほど、小説を読まない私。
そんな私でも好きな作家が何名がいて、そのうちの一人がレベッカ・ブラウンです。
1956年アメリカ生まれ、翻訳は多くありませんが、幻想的な物語から淡々としたノンフィクション風の作品まで幅広く発表。
そのいずれも清々しく瑞々しい言葉遣いで、読んでいて心地よい、独特な作家です。
ホームケアワーカーとしての体験を元に、エイズ患者との交流を描いた『体の贈り物』が、日本でも高く評価されました。
(こちらは現在も新刊書店取扱い可能)
今回選んだ『家庭の医学』は、作家自身の母親が亡くなるまでの介護体験を綴っています。
彼女の作品が素晴らしいのは、決して単純な<感動>に陥らないこと。
淡々と丁寧に物事を描写することで、その背後にある、家族の記憶・苦しみ・悲しみが、読者の元まで伝わる。近しい人の最後を共にした経験があれば、なおさら沁みます。
目をそらさず、見つめ、表現する。その言葉からは、確かな体温まで感じられます。
興味を持った方は、ぜひご一読いただきたい作家です。
現代の名翻訳家・柴田元幸さんの訳は、小説を読みなれない方にも読みやすいと思います。オススメ。

2015年9月5日土曜日

それでも本に囲まれたい&本紹介『しまくとぅばの課外授業』

皆さん、おはようございます!
くじらブックスです。
窓から、雲一つない水色の空が見えます。
気持ちいい日の始まりです。

先月末、7年ほど勤めた書店を退職し、5日が経ちました。
まだ、とも言えますし、もう、とも感じます。
自分のペースを探りつつの無職生活。
地元・実家でもありますし、基本的にストレスフリーで過ごしているのですが、一つ困ったことが。

もっと本に囲まれたい…。

バイト時代を含め約10年。
沢山の本に触れ過ごすことが当然でした。
自分の蔵書ではどうにも満足できません。
(数だけならいっぱい、家のあちこちに溢れかえってますが)
自分の知らない本との出会いがなければ、満足できないのです。
これはもう<職業病>といっていいのかも。
公共図書館のありがたさ、他の書店・古書店の楽しさをしみじみ実感しています。
仕事を辞めたからこそですね。
ああ、今日も本に出会いにいかなくちゃ…。

さて、今日ご紹介する本はこちら。


『しまくとぅばの課外授業 琉球語の歴史を眺める』 

著:石崎博志 出版社:ボーダーインク 本体価格:1600円


元々は中国語研究をされていた著者。
沖縄移住・琉球古典音楽をきっかけとして、琉球語(しまくとぅば)の研究をすることに。
音韻の変化、漢字との関係、言語史まで、明確に定義されなかった部分を独自の調査から解説していく。

特に分かりやすく面白いのが、「保栄茂はなぜ「ビン」と読むのか」の章。
今まで何となく使っていた保栄茂・北谷などの難読地名。
実は言語学的法則・理屈に従って、何百年もかけて変化したものだった!
それを歴史資料を参照しながら、明確に証明していく。
上質なミステリを読んだ時のような驚きと感動が湧いてきます。
勉強用テキストではありませんが、読みやすく楽しめる、新たな琉球語読み物の誕生です。
国語学・言語学の専門家はもちろん、沖縄について知りたいという一般の方までオススメ。
特に沖縄県民・住民こそ、読んだら目からウロコになること必死です。
ぜひご一読を!

9月18日「しまくとぅばの日」には、ジュンク堂書店那覇店で石崎先生のトークイベントも開催されます。
前回8月に行われたイベントもとても面白く興味深い内容でした。
お時間のある方はぜひ、ご参加ください。

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「しまくとぅばの課外授業」発売記念トークイベント 「沖縄のことばに歴史あり!」
9月18日(金)19時~
場所:ジュンク堂書店那覇店地下1Fイベント会場
詳細はこちら
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2015年9月4日金曜日

「人の縁」から「本の縁」&豊永美菜子個展『BUEN CAMINO!』@言事堂

もう午後だ、こんにちは!
くじらブックスです。
本日は午前中、知人の紹介で不要品をもらいに某大学へ。
棚や機材など、店で使えそうな品々をいただくことができました。
ありがとうございます!
本も絵本中心に、結構いただきました。

↑天気が良いのでベランダでさっそく虫干し。

店をやる!と言ってから、いろんな方が声をかけ助けてくださいます。
気づかなかった縁がつながっていく。
「世の中って思った以上に広くてつながってるんだなあ」と実感しています。

さて、今日のご紹介は本ではなく展示会。
那覇市松尾にある古書店・言事堂(ことことどう)にて開催中の豊永美菜子個展『BUEN CAMINO!』です。

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豊永美菜子個展 BUEN CAMINO!
サンティアゴ・デ・コンポステラまでの道を歩いた記録


若狭の言事堂でも個展をしてくれた豊永美菜子さんが、今年6月から7月にかけての
約1か月間、フランス・スペインのキリスト教の巡礼路800kmを歩き、
『サンティアゴ・デ・コンポステーラ』までの道中の記録を本にしました。

その本の展示と、旅の間に撮りためた写真、地図、実際に巡礼に使用した装備、
買い物したお土産などなどを言事堂の2階にて展示いたします。
巡礼路について、スペインについて知りたい方や、旅好きな方はきっと興味津々に
なるかと思います。
バックパックで全行程歩いての旅なので、普段の移動の中では知ることの出来ない
ことばかり。 展示を見たら、旅に出たくなるはず。

言事堂もフランス、スペインの本を選書して展示いたします。
展覧会は8/25(火)から。
旅の記録集、選書本は販売も行ないます。

旅のお話会も9/19(土)の夜にRoguiiにて開催されます。

展示会:言事堂(2階ギャラリー)
2015.8.25(火)-9.6(日) ※8/28(金)、31(月)はお休み
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(以上言事堂ブログより引用)

美術・工芸書をメインとした言事堂さん、店舗2階にスペースを設け、さまざまな展示会を企画・開催されています。
今回はフランス・スペイン巡礼の旅ということで、全く予備知識もなく拝見したのですが、とても楽しかったです。
壁一面に貼り付けされた旅の写真を眺め、実際に持って行かれた重いバックパックを背負い、当時更新したFBを再構成した旅の記録集を読む。
あの空間に佇んでいると、私もフランス・スペインの地を歩いているような、不思議な気持ちになります。


旅の記録集/1500円(本体)
見開き一日分、34日間の記録。
読みながら、豊永さんと共に少しずつ自分自身の帰る「故郷」に向かって歩いていく。
写真と言葉が沁みる味わい深い1冊。
言事堂にて販売中。

誰かの体験を空間や文字を通して追体験する。
本や展示会・表現するということが持つわくわくする「可能性」を味あわせていただきました。
9月6日、今週日曜日までの開催だそうです。
お近くの方、ご興味を持った方はぜひ観に行ってください。

昨夜、帰宅して今月末行く九州旅行の計画に熱が入ったのはいうまでもありません。
どこまでいけるかなー。